in her world

littoral2007-07-16




川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」。
すばらしい。これを芥川賞候補に加えたということは、賞の周辺に、何かを変えたい、という人びとがいるということ。友人OZが私的に送ってきたメールには、こんな感想が記されていた。一部をここに紹介。

ワセブン・ゼロ号を読んだ。
まずは、あのざらついた紙と、それとは対照的な肌触りの表紙が、気に入った。
今日的かどうかは別にして、ぼくがもう一度手にしたいと思っていた旧『宝島』感覚の雑誌です。
さて、『わたくし率 イン 歯ー、または世界』。
読んでいて、デジャビュでした。
まず、細部にこだわるエクリチュールという意味でロブ=グリエを思い、
無機質への偏執という意味で『オリーブから〜』(アオウ)を思い、
そして、コトバの乱舞という意味でジョイスを思いました。
どうも、これはね、やっぱり受賞はないよね、とは思ったのですが、最終盤に向かうにつれ、ワタクシのなかの評価は高まりました。
歯は、生体にあってきわめて例外的な無機質突出物です。
そこに、自己存在を凝縮させる世界像は、スゴイ。
総入れ歯の高齢者は、わたくし率ゼロパーセントということになり、それは倫理上とても問題があるもの言いですが、当人たちの喪失感を見事に言いあてているようにも思われます。
そして、「青木」のアパートの金属階段を転げ落ちていく主人公は、公園の滑り台を滑り落ち、ころころ転がる『オリーブから〜』の「僕」に重なります。
で、ひょっとしたら受賞はあるかもしれません。
そうだとしたら、とてもスゴイこと。

ちなみに、『オリーブから〜』は、大学時代にやっていた同人誌(「唖嘔」)にOZが書いた秀作。いまでも冒頭の1行を覚えている。