「犬身」論・論争 あるいは若手批評家の父殺し

先夜、ぶらりと立ち寄った新宿のとあるバーで、奇妙な光景に遭遇した。なにやら、50過ぎの中肉中背の男がわめいている。止まり木から耳を傾けていると、どうやら弟子筋にあたる若手批評家に、文句があるらしい。 さらに聞いていると、松浦理英子の『犬身』を…

古井由吉さんと飲み、食べ、話す

日曜日の夕刻、中野の北アフリカ料理の店で、久しぶりに古井さんにお会いし、歓談する。5人で赤ワインを5本あけるが、半分以上を二人で飲む。互いにそれとなく近況を話すうち、ともに入院話となる。「蝙蝠ではないけれど」*1に書かれた16年前の手術ほど大…

空位時代の長距離走者 堀江敏幸の孤独な走り

「文學界」(07年11月号)掲載の堀江敏幸の「果樹園」を読みながら、作品への印象とともに、近代文学館の夏の催し「作家の誕生」で、本人がデビュー作『郊外へ』の頃を語っていたことを思いだす。まだ、40歳を越えたばかりで、もうデビュー作の回顧にひっぱ…

俗流を離れて、京都でフロイトにひたる

京大会館で行われた「第一回フロイト思想研究会」にでかける。 新宮一成氏の発表は、「精神分析はエディプスコンプレクスと運命を共にするのか?」という発表。男女の性関係に還元される「俗流のエディ・コン」は、現実界を埋め合わせしてしまうのに対し、ラ…

こんな夢を見た

ふだんは、あまり夢を見ない。いや、見ていても覚えていない、というべきだろうか。ましてや、夢分析などしない。好きではない。しかし、こんな夢を見た。 私はガラスのはめ込まれたドアの外にいて、内部を見ている。その建物には、もう一つの端に同じような…

ヒップホップを観る

ヒップホップのダンス・グループRockwilder(いわゆるRock wilderではない)のパフォーマンスを観る。中心のMAAさん、少し太った印象だが、切れは相変わらず。ユーモアを込めたサーヴィス精神にあふれている。アレンジメントは抜群。

何か変だよ、文芸誌「すばる」

「すばる」8月号がどうもオカシイ。じわじわと、読後の残像が、そう語りかけてくる。どこが?? 奥付を見ると、編集長が代わっている。だから? ってわけだかどうか分からないが、なんかチガウ雑誌に見える。パワーがない。お座なりの、講演でも聞かされた感…

続・レーダーホーゼン

村上春樹の「レーダーホーゼン」を読んで、あることに気づく、それをどう書くか、を考える、と数日前に書いたが、どう書くか、アイデアがわく。村上春樹全体を読み直すアリアドネの糸になるかもしれない。この夏に、新たな作業が加わることになりそうだ。

忘れてしまったのか、再創造なのか

大江健三郎の『読む人間』を読んで、ある個所にひっかかる。 第一部7章「仕様がない! 私は自分の想像力と思い出とを、葬らねばならない!」で語れる『憂い顔の童子』の最初と最後で反芻される記憶にかかわる。「私」=古義人が五歳のとき、「川で溺れかけた…

動物による哲学

面白い一冊に行き当たる。『哲学者たちの動物園』(ロベール・マッジョーリ・國分俊宏訳)。「ドゥルーズとガタリのマダニ」、「デリダの猫」「ハイデガーの蜜蜂」等々。シャレた軽めの語り口に、なかなかの示唆がふくまれる。哲学者たちの動物園作者: ロベ…

レーダーホーゼン

村上春樹の「レーダーホーゼン」を読む。正確には、読み比べる。『回転木馬のデッド・ヒート』に収められたものと、『象の消滅』に、アメリカ版短篇集(冒頭は大幅に、終わりはごくわずかに、訳者による編集・加工がくわえられている)から作家自身が訳した…

パラレル・ワールドがいっぱい

高校時代の友人と、7月10日の13:30、築地場外のスシ屋で久々に会う。互いに会議と会議の合間の2時間を利用。口がこえているわけではないが、スシは普通。 話題は、ほんのちょっと前のNature誌の「パラレル・ワールドがいっぱい」。つづいて、ブンガクとカ…

in her world

川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」。 すばらしい。これを芥川賞候補に加えたということは、賞の周辺に、何かを変えたい、という人びとがいるということ。友人OZが私的に送ってきたメールには、こんな感想が記されていた。一部をここに紹介。…

はじめの一歩

若い編集者から、ここ半年、ブログをはじめるよう執拗に誘われている。 その打ち合わせをふくめて、Kに会う。 根が無精で、なかなか腰があがらない。腰があがったとしても、続かない。 更新速度のきわめてゆるやかなブログなど、意味はない。それでもはじめ…